第15回日本在宅薬学会学術大会へ参加
株式会社なかいまち薬局から代表を含め4名のメンバーが札幌で行われました「第15回日本在宅薬学会学術大会」に参加しました。参加メンバーの報告書をまとめ公開いたします。
日時
学会名
第15回 日本在宅薬学会学術大会
日
令和4年7月17日(日)~ 18日(祝)
会場
札幌コンベンションセンター
主催
一般社団法人日本在宅薬学会
感想および報告
2日間にわたる学会で、計7つの講演・シンポジウムおよび、1つのワークショップに参加させていただきました。
薬からの摂食嚥下臨床
どの講演も興味深い内容でしたが、特に印象に残っている講演は「薬からの摂食嚥下臨床」です。演者は大阪大学大学院 顎口腔機能治療学教室で准教授を務めていらっしゃる歯科医の野原 幹司先生でした。
薬剤師にとっては「摂食嚥下障害への対応=嚥下リハ=セラピストや看護師の領域」というイメージが拭えないかもしれないが、臨床においては嚥下訓練よりも投薬内容の調整が重要。したがって患者様のADL低下を防ぐために、もっと薬剤師の薬学的視点からの介入が必要といった講演内容でした。
先生から、いくつかの症例を交えながら具体的に臨床現場で起こりうる問題をお示しいただきました。
その中で、咀嚼不良の訴えにて、顎関節症を疑って受診された30代の女性の症例がありました。通常の顎関節症の所見とは異なるので、併用薬が無いか確認したところ、統合失調症の治療薬:アリピプラゾール服用していることが判明。精神科と協議の上、アリピプラゾールを減薬したことで咀嚼不良の症状が劇的に改善したというお話がありました。 先生によると、こういった薬剤に起因する嚥下障害はたびたび見られるとのことでした。 これまで嚥下障害というと主に高齢者の口腔周辺の筋力低下や脳機能の低下に起因するトラブルという認識でしたが、このような若い方にも薬剤を原因として起こりうるというのは、私にとっては衝撃的な内容でした。それと同時に、嚥下が難しくなってきたという訴えを耳にした時に、まずは薬剤に起因する症状ではないか?私がお渡ししたお薬で嚥下が困難になってしまっているのではないか?という疑いの目を持つことの大切さを学びました。
既にご存じの先生もいらっしゃるとは思いますが、具体的に嚥下障害のリスクとなりうる薬剤名をご教授頂けましたので、局内で共有し今後の業務に役立てたいと思います。
漢方ワークショップ:「『腰から下の痛み』を訴える患者さんへの対応を考えよう」
はじめに日本在宅薬学会漢方研究所会長の狭間 紀代先生から腰から下の痛みに使う漢方処方の特徴や使い方について非常にわかりやすくご説明いただきました。保険収載されていないが、OTCでは取り扱いができる処方についてもお示しいただけましたので、大変勉強になる講義でした。
続くワークショップでは、総勢60名の参加者が7-8名ずつのグループに分かれて、具体的な症例を用いて、使っていただきたい漢方についてのディスカッションを行いました。初学者の方からベテランの漢方相談員方までいらっしゃり、様々な見地からのお話をお伺いすることができて刺激になりました。
私が参加させていただいたグループでは、ひざ痛を訴える方への漢方の使い分けが大きな議論のテーマとなりました。一番に主訴を良くして差し上げるのが先か、はたまた主訴の原因となりうる症状を取り除くのが先か…等。(例えばひざ痛で言えば肥満・さらにその肥満の基と考えられる疲労感など)
単純な対症療法としての治療だけにとどまらず、根本から良くなって頂きたい。そのお手伝いをさせて頂きたい。という相談に来られる方への先生方の深い想いを感じることができました。
全体を通しての所感
これまでの「対物」業務に偏重した薬局のあり方から、「対人」業務にシフトしていくということは、これまでの薬剤師の働き方をガラッと変えることでもあるので、痛みを伴うことでもあると思います。
しかし、「対人」業務へのシフトは地域社会への貢献は勿論の事。
いわゆる「薬剤師」「薬局事務」としてだけでなく、「人」として人間性を深めて人生をより良いものに出来るチャンスであるとも感じます。
勇気をだしてエイッとはじめの一歩を踏み出してより良い在り方を追求していければと思います。ありがとうございました。
執筆者瀬戸正宏(薬剤師)
小田原市出身。32歳。薬剤師。2014年日本大学薬学部卒業後、離島へき地医療に興味を持ち、沖縄県の急性期病院へ就職。鹿児島県大隅鹿屋半島などへの応援を経験。その後西日本最大クラスの漢方専門相談薬局へ転職。年間150件以上の漢方相談を行う。結婚・子育てを機に2021年12月にUターン。現在に至る。
在宅医療の先端を走る医師薬剤師の日常について、また考え方や進め方について学ぶためにいくつかのシンポジウムに参加した。社内に還元したい内容を以下に抜粋する。
在宅初めの一歩
個の顧客がつくこと
人生のフェーズにおいて医療は手段でしかない。その人が大切にしているものを選択できるよう整えること、その人らしい生活を送るために寄り添い、他の医療職や介護職の方と連携してどう実現していくかを考えること。在宅医療が特別なことではなく日常のこととして選択できるように考えていく。
在宅の未来に向けて
在宅医療≒準病棟 生活を含めた全人的な関わり
在宅医療は患者の一つの選択肢となるが、在宅医療を行う患者についてはゴールが不明もしくは多様で複雑な対象である。自室が疑似的な病室となるためそこに入ってくる様々な職種と情報交換をしながら患者をマネジメントすることとなる。そのために必要なことができる薬局とはどんなスタイルかを考えていく。やってはいけないことはないので必要であればやってみる!
「在宅褥瘡における多職種連携」
基材ファーストの視点
外用薬による基材特性を用いた湿潤調節が需要であり治癒を阻害する要因に注目した基材の選択を行う。また創にかかる外力による動的病態に着目し対応することも治癒期間の短縮につながる。
口頭・ポスター発表より
大田区での多職種が顔の見える関係づくりの取り組み
東京都大田区では地域医師会が多職種の顔の見える関係性を確保するために地域包括ケアの会を企画し定期的に開催している。多職種が一同に会し意見交換できる場が増え、事例検討を通して各々への業務に生かせる多くの気づきが得られている。
開局3年の検証と今後の展望
在宅薬局立ち上げ3年目の薬局が地域ケアシステムで機能するために薬剤師、パートナー、事務の仕事分担をはっきりとさせている。薬剤師でいえば監査疑義紹介、患者宅にてバイタルチェック、アドヒアランスチェックこれらを処方の当日訪問当日報告を行っており、訪問後に疑義で変更があれば再訪問している。地道な行動を繰り返すことで在宅薬局を軌道に乗せることができた。
最初に行われた理事長講演では薬剤師は医師看護師とチームの一員であることが当たり前であり、FAF(follow、assessment、feedback)が常に行われているとのことだった。初日から衝撃を受け自分の仕事へのモチベーションを左右してしまうほどだったのだが、気を取り直して現状でできる一歩を探りたいと思う。今現在お届けの現状から進むために、患者に対して関わる様々な機関と積極的に連携をとることが第一歩と感じている。
執筆者内田紋子(薬剤師)
平成14年 昭和薬科大学卒業
薬剤師としては東京の調剤薬局に勤務。現在は小田原へ移住し健やか薬局に勤務中。
薬局メンバーとしては最年長ではあるものの薬局スタッフに大きな力添えをもらいながら働く毎日。在宅チームの一員としてたくさんの悩みを抱えつつ、患者さんとご家族のお力になれるよう日々奮闘中。
始めは、パートナーである私に理解できるだろうかと不安もありましたが、実際にはどのお話も大変興味深く、為になるものばかりでした。2日間にわたるプログラムのうち、6つの 講演及びシンポジウムに参加し、その中でも印象に残った講演をあげさせて頂きます。
対人業務への強化~薬局パートナー制度について~
某薬局の先生は、薬局パートナーのいる薬局といない薬局を両方ご経験され、いかに薬局パートナー制度が重要かをお話して下さいました。
薬局パートナーがいないことで対物業務の多くを薬剤師が行い、薬剤を正しく届けることに精一杯でしたと。
対して、薬局パートナーと協働することで「薬学」を考える時間が十分にとれ、医師や多職種との連携にもつながり、薬剤師としてのやりがいと喜びを感じていますと。
薬剤師が薬剤師としての仕事に集中するための「時間・気力・体力」を作り出すためにも、薬局パートナーは必要不可欠なのだと再認識させられました。
事務職の目線から見ると、業務量の多さや調剤補助以外の知識の習得の必要性など、定着するまで時間はかかることでしょう。
実際にパートナーさんが活躍されている薬局さんでは、「パートナーキャリアプラン」を導入されていました。
求められる知識やスキルの明確化、それに伴う評価制度を取り入れたことにより、個々がやりがいを感じスキルアップに 繋がっているそうです。
また、調剤室での対物業務だけでなく、OTC販売や多職種との関わりが増えていくことで、パートナーとしてできる対人業務があり、患者様と薬剤師を繋ぐ重要な役割を担っていると実感しているとのことでした。
当社でも日頃から「薬局パートナー制度の強化」が求められていますが、私が現在勤務する健やか薬局では生かされていないのが現状です。
私自身も昨年パートナー認定の取得をしたばかりで、現場への貢献がまだまだ出来ておりません。
まずは、業務の見える化・機械化・効率化を進めること。人材育成を図り、チームとしてのスキルアップを目指していかなければなりません。
「対物業務」だけでなく「対人業務」もあることを知り、仕事の幅が広がると感じました。
薬剤師と協働し、薬局の質への向上へ貢献できるよう、パートナーのスペシャリストとなれるよう奮闘していきたいと思います。
OTC販売を通じて、社会貢献できる薬局経営~地域に根付いた薬局作り~
薬局の持つべき3つの顧客=売上は「外来・在宅・OTC」であるとのお話でした。
処方箋なしの顧客をどう獲得していくか、売上に繋げていくかを考えていく必要があると。
どんな商品を求めているかなど、薬剤師との連携も必要で パートナーは患者様と向き合う時間が少ない中で、どのようにコミュニケーションを図っていくかが今後の課題だと思いました。
仕入れ及び陳列からまずは見直し、プレゼンテーションもできるよう、もっと勉強していこうと思います。
個人的には現在、登録販売者の資格取得を目指しています。
全体を通して、どの講演も「対人業務の充実化」が根本にありました。
それには、薬局パートナーが必要不可欠であること。まずはパートナーの底上げから始めていければと思います。