薬剤師が教える薬物依存と治療法
「薬物依存」は、あまり身近には存在しないものだと考えていませんか?
依存性があるのは、大麻や覚醒剤など、テレビ番組で見るような違法薬物だけではありません。医療用医薬品や市販薬であっても、正しく使わなくては依存を起こしてしまうことがあります。
今回は、薬物依存がどういったものか、どのような状況が薬物依存を起こしやすいのか、薬物依存を起こさないためにどうすべきかなど、薬物依存にまつわる話題について解説します。
目次
薬物依存とは何か?
薬物依存は、身体的な依存と、精神的な依存の2種類があります。
大麻や覚醒剤といった違法薬物だけが依存を招くわけではありません。睡眠薬、精神安定薬、咳止め薬、痛み止めなど、病院で処方されるような薬やドラッグストアで買える市販薬であっても、使い方を誤れば依存してしまうことがあります。
身体的な依存
体の中に薬物がある状態が当たり前となり、薬物がなくなると体の症状が出る状態が身体的な依存です。アルコール依存の場合であれば、アルコールが抜けると手が震えるというようなものを指します。
精神的な依存
薬物を使いたくて自分の行動を制御できないような状態が、精神的な依存です。タバコを吸えない時間が長くなると、タバコを吸いたくてイライラしてしまう状態などのことを指します。
薬物依存のリスク要因
一歩間違えれば、どんな方でも薬物依存に陥ってしまう可能性があります。依存に陥りやすい方やタイミングについて、知っておいてください。
家族や周囲の環境
家族や友人など、自分の身近な環境で何らかの薬物を使用している人がいるなど、薬物が身近にある環境に身を置くことで依存のリスクを高めてしまいます。
また、家庭内暴力などで逃げ場がない、家族に頼れず孤独を感じているといった要因も、薬物依存を生みやすいです。
心の健康とストレス
不安やイライラなど、精神的なつらさやストレスを慢性的に強く感じるような状態にあると、依存を起こしやすくなります。
コントロールできないつらさに対して、「これがあれば自分でつらさに対処できる」という「ニセの安心感」から薬物に依存してしまうのです。
一般的な薬物依存の兆候と症状
自分では「依存ではない、コントロールできている」と思っていても、気がつかないうちに少しずつ依存は形成されていきます。薬物依存を起こしている人は、周りから見れば「性格が変わった」「おかしくなった」と感じることも多いです。
何らかの薬を常用していて以下のような兆候を感じたら、薬物依存に陥っている可能性があります。専門家への相談をご検討ください。
身体的な変化やサイン
- 常にだるさが抜けない
- 不眠、あるいは過眠
- 食欲がない、あるいは食べすぎる
- 手が震える
心の状態や感情の変化
- 感情の起伏が激しくなった
- 嘘をつくようになった
- 声を荒げることが増えた
人間関係や社会的な影響
- 他人と揉め事を起こすようになった
- 仕事や学校に行かなくなった
薬物の使用パターンと変化
薬物依存は、気がつかないうちに形成されていくものです。
初期の段階では、「依存している」という意識のある方はほとんどいません。「このくらい問題ないはず」、「自分でコントロールできている」などと考えたり、頻度が増えていること自体に気が付いていなかったりします。
薬に体が慣れてきて、以前ほどの効果を感じられなくなることを「耐性ができる」といいます。耐性ができることで、以前と同様の効果を得ようとして薬の使用量がどんどん増えていくのです。
この頃になると、薬に対する身体的な依存の影響で「禁断症状」を感じて、「薬を使わないとつらい」という状態になります。
人からお金を借りてまで購入しようとする、盗んで手に入れようとするなど、薬を手に入れるために行きすぎた行動をとるようになります。
アルコール依存の場合、周囲の人がアルコールを隠したとしても、調味料や化粧品に含まれるわずかなアルコールでさえも摂取しようとするなど、通常では考えられない行動をとってしまうこともあります。
医療用医薬品に依存している場合は、さまざまな病院を転々と受診して薬をもらおうとしたり、薬をもらえないと医療者と言い争いをしてしまったりすることも少なくありません。脳の変化によって、欲求を抑えられないのです。
薬物依存からの回復とサポート
薬物依存から回復するには、自分の意思の力だけに頼るのではなく、専門的なサポートを受けることが重要です。
医療的なサポートと治療法
依存から回復するための初期には、医療的なサポートが必要不可欠です。
薬物依存を断ち切ろうとすると、体や心にさまざまな症状が出てきて、薬物を使いたい・使わないとつらいという状況になります。そのつらさを、一時的に医療の力で和らげながら、まずは体を回復させていきます。
心の健康を整えるサポート方法
体を回復させたあとは、脳を回復させていきます。薬を使用していた影響でぼーっとしていたり、感情の起伏が激しくなってしまったりといった状況から、元の状態へ少しでも近づくことを目指すのです。
自分自身と向き合い、改善する
薬物依存によって変化したり、傷ついたりした自分自身の心の回復をおこないます。
この段階では、サポートグループなどを活用することが推奨されています。薬物依存に苦しんだ仲間同士、さまざまな話を聞く中で、自分の中の反省点を見出したり、今後の道筋を見つけたりするための活動です。
コミュニケーションと支え合い
薬物依存に陥ると、家族や親しい友人との関係性が壊れてしまうことが多いです。
ですが、長い回復の道のりには、身近な人との関係性を取り戻し、見守ってもらう必要があります。
薬物依存によって、一度壊れてしまった信頼関係を作り直すのは簡単なことではありませんが、薬物依存から立ち直ろうと努力する姿を見せることが大切です。
健康的な生活習慣を身につけることも必要になります。一定のリズムで生活を送ることで、薬物を使うタイミングを生まないようにしたり、夜に昔の仲間と出歩いて依存に戻ってしまったりしないようにすることが大切です。
薬物依存を避けるためのヒントとアドバイス
薬物依存は、断ち切るのが難しいものです。そもそも依存に陥らないために、どのようなことに注意すべきでしょうか?
薬物を適切に使用する
どのような薬であっても、使用方法を守ることが第一です。少しくらい多めに飲んでもいいだろう、医師にダメだと言われたけど1回くらいなら…といった軽い気持ちが、依存への入口となるかもしれません。
小さなうちから、薬の使い方についてきちんと伝えること、大人も正しく使用している姿を見せることを意識してください。
安心できる場を作る
ストレスや不安といったマイナスの感情に陥っていると、そこから逃れよう、そのつらさを紛らわせようとして、薬物依存に陥ることがあります。ストレスを上手にコントロールする、ストレスのある環境を思い切って変える、助けを求めるなど、ストレスを抱えすぎないようにすることが大切です。
とくに子どものうちは、学校や友人関係が世界の全てと感じやすく、狭いコミュニティでのストレスや失敗から「もうダメだ、おしまいだ」というような絶望的な気持ちになってしまうことも少なくありません。友人から誘われたとき、「断ったら孤立してしまうかも」と考えて断れないということもあります。家庭が頼れる場所、安心できる場所になることが理想的です。
家族として、些細なことでも共有し合えるような環境づくりが求められます。子どもが自分自身で正しい決断ができるように、サポートしながら、自立を見守りましょう。そして、ある程度年齢の大きくなった子どもであれば、子どもを信用して、押さえつけたり管理したりしすぎないことも必要です。
まとめ
今回は、薬物依存にまつわるさまざまな話題について解説しました。
薬物依存は、病院で処方されるような医療用医薬品や市販薬であっても起こり得ます。自分では気が付きにくいものですが、兆候に気がついたら、専門家のサポートを得てください。
また、子どもが依存に陥らないよう、小さな頃から薬を適切に使用する習慣をつけること、ストレスや不安があったときに頼れる場を作ることを考えてみましょう。
参考
監修漆畑俊哉(薬剤師)
- 株式会社なかいまち薬局 代表取締役社長
- 日本薬剤師研修センター 研修認定薬剤師
- 日本在宅薬学会 バイタルサイン エヴァンジェリスト
- 在宅療養支援認定薬剤師