子どもの性教育。大人がやらなくてはならないこと
近年、「小さい子どものうちから性教育を」と言われるようになってきました。とはいえ、親世代が子どもの頃は、性教育は中学生や高校生で妊娠・避妊のことを少し聞いた程度ですよね。
性教育の話題は、センシティブで難しいもの。何を伝えたらよいのか、困っている親御さんも多いことでしょう。
今回は、小さい子どもにどのような性教育をしたらよいのか、思春期の子どもには何を注意してあげたらいいのか、薬剤師の立場からお伝えいたします。
性教育とは?
最近、「小さい子どものうちから性教育を」と言われるようになってきたのは、日本だけでなく世界的な流れです。
2009年に、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)を中心として、子どもたちに性教育をすすめるためのガイダンスが作られました。そして2018年に改訂され、その頃から日本でも子供の性教育の見直しが始まったのです。
性教育というのは、「性交渉」、「コンドーム」、「妊娠」について教えるだけではありません。人との関係性の作り方、ジェンダーについて知ること、意思決定やコミュニケーションについて、体の発達についてなど多岐に渡ります。「性教育」と名前はついていますが、性以外のことについても、人とのコミュニケーションについて総合的に学ぶイメージです。
オープンなコミュニケーションが大切
小さい子どもが「どうやって赤ちゃんができるの?」と聞いてきたり、思春期に差し掛かってパートナーとの関係について具体的なアドバイスを求められたりと、年齢に応じてさまざまなコミュニケーションが必要になります。
「恥ずかしいこと」、「話してはいけないこと」と感じさせてしまうと、子どもが親に相談できない環境になってしまいます。
子どもにとって最も身近な相談相手として「親」を挙げられるよう、オープンに話せる関係性を日頃から作っていきましょう。
性教育で伝えるべきこととは?
では、実際にどの年代で何を伝えるべきとされているのか、ガイダンスの内容について少し具体的にお伝えします。
5〜8歳:自分や友だちを大切にしよう
自分が大切な存在なんだと感じられることで、「自分は大切な存在だ」、「イヤなことはイヤと伝えていいんだ」と学ぶことができます。
その経験の積み重ねで、「友達も同じように大切にしよう」、「イヤだって言われたらやめよう」と考えられるようになるでしょう。
また、この頃から「プライベートパーツ」について伝えはじめてください。胸や性器、お尻、口はプライベートパーツ。相手の同意なく勝手に触ったり、見たりしてはいけない部分です。仲がよいお友達や親だとしても、プライベートパーツを勝手に触るのはいけないことだと知ることで、身を守れるようになります。
8〜12歳:「違い」や「性」について知ろう
第二次性徴を前に、体の変化や、ジェンダーについて知り、考える時期です。女の子は月経が始まり、男の子は声変わりや精通を経験するようになります。
体の変化はいつ訪れるかわかりません。知識のないまま急に体が変化すると、びっくりしてしまいます。直接話すのが難しいと感じる場合は、本やマンガなどをさりげなく置いておき、話のきっかけとするのもよいかもしれません。
そして、男女の体の違いについて知るとともに、「性」は必ずしも男女の2種類だけではないことも知らせておくとよいでしょう。男の子だから女の子を好きになるとは限りませんし、女の子だからといって可愛らしい服装を好まなくてもよいのです。
12〜15歳:どんな自分になりたいか考えよう
性的なことに興味が出てきたり、誰かのことを好きになったりすることが多い時期です。それは自然なことですが、一方で、性的なことや恋愛に興味がないのも、おかしなことではありません。
15〜18歳:自分の意思で世界を広げよう
大人に近づいたこの年代は、子ども自身の意思でさまざまなことを選び、自分の未来を決めていく時期です。
誰かの意見に合わせたり、言いたいことを我慢したりするのではなく、自分で決めた意思を素直に言い合ってお互いを尊重し合えるのが「よい関係」であることを知ってもらいたいですね。
このことは、パートナーとの関係でも重要です。「性的な行動」には、相手の「同意」がなければなりません。
性交渉だけでなく、手を繋ぐ、体に触れる、キスをするなど、相手の体に接するすべての行動が「性的な行動」になります。
「お互い好きなのだから、手を繋いでもよいだろう」、「付き合っているのだから、キスをするのは当たり前」と決めつけず、気持ちを確認することが大切だと理解しましょう。
性感染症予防
性教育では、自分を尊重することや、人間関係をどう築いていくかなど、さまざまなことを学びます。ですが、実際に性感染症など、従来の性教育でも触れていた内容も正しく理解することが大切です。
性感染症のリスク
性感染症のリスクは、どこにでも潜んでおり、親も子も、正しく知っておく必要があります。
性感染症は、「いろんな人と性的なことをしていると感染する」、「性風俗産業に関わっている人だけのもの」というように思っている方は多いです。ですが、性感染症は複数のパートナーがいる人だけに生じる問題ではありません。そして、最近では、10代で性感染症にかかる人が増えていることも問題になっています。
性感染症は、早めに対処しなくては症状が悪化したり、不妊につながることもあります。とくに女性の場合、クラミジア感染症や淋菌感染症は初期症状が出にくいため気づかない間に進行し、いざ「子どもが欲しい」となったときに不妊に気がつくこともあるのです。
「性感染症は恥ずかしいことだ」という誤解を持っていると、誰にも相談できないということになるかもしれません。
性感染症について話すときは、「誰にでも起こりえること」、「早く気づいて治療できるようにしよう」とお伝えください。
性感染症の早期発見と治療
性感染症は、たった一度の性的な接触でも感染することがあります。「性器周辺が痒いかもしれない」、「おりものがいつもより匂うかも」など、少しの違和感を相談できる環境を作っておくことが、性感染症の早期発見のために大切です。
予防策とワクチン
性感染症の予防のためには、コンドームの正しい着用が最も大切です。性別は関係なく、お互いがパートナーの健康や人生を大切に考え、コンドームを着用するようにしましょう。
厳密には性感染症ではありませんが、子宮頸がんの原因である「HPV(ヒトパピローマウイルス)」が性行為で感染することが知られています。「HPVワクチン」の接種が推奨されていますので、12歳から16歳までの女子は接種を検討してください。
また、HPVワクチンによって、HPVによる子宮頸がんや中咽頭がんの予防ができます。オーストラリアでは88%、アメリカでは64%の男性がHPVワクチンを接種しており、男女ともに接種することが望ましいです。日本でも、費用はかかるものの男子にも接種できるようになりました。
学校やコミュニティでの性教育
「親として子どもの相談相手になろう」と思っても、親だってわからないことはあります。子どもの相談に乗りたくても、なんと答えたらよいか迷ってしまうことがあるかもしれません。
そういった場合、学校の担任の先生や養護教諭(保健室の先生)、かかりつけの小児科や内科・婦人科などの医師、薬剤師も相談相手になりえるでしょう。
性感染症や妊娠、体の変化などについて専門的な知識がある人に相談することで、親として正しい知識を子どもに伝えることができます。
未成年の性行為と法律
近年では、SNSなどを通じて年上の知らない人と会い、性被害にあうという事件も増えてきています。
親としても、年頃のお子さんがいれば心配な部分でしょう。
子どもを狙う人物は、同年代のフリ・同性のフリをしてSNSなどで接触してきて、最寄駅を聞き出そうとしたり、写真を送るよう求めたり、会おうと誘ったり…とさまざまな手口で子どもに近づいてきます。
「こういう手口もあるんだね」と共有したり、「何かあったら相談してね、味方だからね」と繰り返し伝えたりすることが必要です。
そして、「年齢の離れた未成年(子ども)と性的な関係を持とうとする大人は、どんなに優しく感じてもよい人ではない」ことを伝えましょう。
また、SNSを通じた性被害のニュースがあれば、一緒に意見交換をするのも1つの手です。1から10まで子どものやることをコントロールすることはできません。信じて見守り、必要なときには親に相談できるという関係性を作ることが大切です。
参考商品
近年の性教育について知りたい、子どもと一緒に学びたいという方に、おすすめの書籍をご紹介します。
親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育
子どもと一緒に読んでも問題のない内容ですが、どちらかというと親向けに書かれた本です。子どもの年代ごとに、どのようなことを教えたらよいか、親の心構えなどが書かれています。
赤ちゃんはどこからくるの? 親子で学ぶはじめての性教育
小学生くらいまでの子どもと親が一緒に読んで学べるマンガ形式の本です。いのちの話、体の話などが書かれています。
セイシル 知ろう、話そう、性のモヤモヤ 10代のための性教育バイブル
10代の子どもを対象として、よくある疑問に会話形式で答えてくれる本です。体の変化についてや、SNSとの付き合い方、性交渉についての正しい知識など、幅広いテーマを扱っています。
まとめ
今回は、近年考え方が変わってきている「性教育」について、そして性感染症の予防についてお伝えしました。
大人として、子どもに年齢にあった性教育を続けていくことが大切です。恥ずかしいこと、いやらしいことだと感じさせてしまえば、大人に相談できない環境になってしまいます。小さな頃から、オープンに話し合える関係性を作っていきたいですね。
参考
- 国際セクシュアリティ教育ガイダンス
- 上村 彰子 他. 親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育
監修漆畑俊哉(薬剤師)
- 株式会社なかいまち薬局 代表取締役社長
- 日本薬剤師研修センター 研修認定薬剤師
- 日本在宅薬学会 バイタルサイン エヴァンジェリスト
- 在宅療養支援認定薬剤師