高齢者の熱中症対策
熱中症とは、高温多湿な環境に長時間いることで、体温調節機能がうまく働かなくなり、体に熱がこもった状態になり、高体温、めまい、嘔吐、倦怠感等を起こし、最悪の場合、意識障害から生命の危機に直面する怖い障害です。
屋外だけでなく室内で何もしていないときでも発症し、なかでも高齢者は若年者より熱中症にかかりやすく注意が必要です。
本記事では、熱中症の予防と対策について分かりやすく解説します。
目次
なぜ熱中症になるの
人の体は、体温が上がると発汗や皮膚の温度の上昇作用で、熱が体外へ放出される仕組みになっています。
ところが、体調がすぐれない、加齢などが原因で「体温調節機能」が上手く働かなくなることがあります。
すると、体内に熱が溜まってしまい、熱中症を引き起こしてしまうのです。
熱中症!特に高齢の方はご注意を!
令和3年5月から9月の全国における熱中症による救急搬送人員の累計は47,877人で、このうち6月から9月の救急搬送人員は46,251人でした。
更に救急搬送人員の年齢区分別では、高齢者が最も多く、次いで成人、少年、 乳幼児の順となっています。
では、どういった場所で「熱中症」になるのでしょうか?海や山などの野外でしょうか?
実は、発生場所別の救急搬送人員をみると、住居が最も多く、次いで道路、仕事場、 公衆(屋外)の順となっています。
熱中症の定義と対処の仕方
日本救急医学会熱中症分類によると、熱中症は次のように分類できます。
- Ⅰ度
- めまい、立ちくらみ、生あくび、大量発汗、筋肉痛、こむら返りなどがみられるものの、意識障害は見られない。
- Ⅱ度
- 頭痛や嘔吐が伴い集中力や判断力が低下。医療機関の受診が必要。
- Ⅲ度
- 意識がもうろうとした状態で、緊急を要するため救急車を呼ぶ必要がある。
熱中症の原因
熱中症の原因は、以下の3つに分けられます。
- 環境的要因
- 季節の変わり目など、急に高気温・高湿度になるなど、気温の変化によるものです。
- 身体的要因
- 高齢者や乳幼児、糖尿病患者などの体力がない人で、体温上昇と体温調節機能のバランスがとりにくいことが、熱中症の原因となることです。
- 行動的要因
- 屋外での激しい運動や長時間の作業をおこなう方が、十分な水分補給をおこなわなかった場合や、睡眠不足などで体力が落ちている時に熱中症になることを言います。
上記の3つのどれか1つが原因というわけでもなく、3つの要因が重なり合って熱中症を引き起こすこともあります。
「若いから大丈夫、元気だから平気」という過信は禁物です。
熱中症の症状
熱中症の初期段階では、顔のほてりや立ちくらみ、めまい、倦怠感などの症状が出ます。
続いて、手足のしびれ、筋肉のこむら返りがおきたり、頭痛や吐き気、嘔吐などの症状があらわれ、いつもと様子が違うことに気付きます。
さらに重症になると、体が熱くなり、けいれんや意識消失をともなうことがあります。
「呼びかけに反応しない」ときや、「自分で動けない」場合は、熱中症が重症化していると考えられるので、救急車を呼ぶなど早急な対処が必要です。
高齢者が熱中症になりやすいのは、どうして?
昨年、救急搬送された熱中症患者の約半数が65歳以上の高齢者でしたが、どうして高齢の方は熱中症になりやすいのでしょうか?
人間は年齢を重ねると体内の水分量が徐々に減少し、一般的に成人の体内の水分量は約60%ですが、高齢者の水分量は約50%だといわれており、体の水分量が少なくなるため、若い頃より脱水をおこしやすいといえます。
さらに、加齢とともに喉の渇きを感じる「口渇中枢」が減退して、喉の渇きを感じにくくなります。
そのため、高齢の方は汗で体内の水分が失われても、体が渇いていることを自覚しにくく水分摂取が遅れがちになるので注意が必要です。
「水を飲まない」という我慢強い方も多いのが、高齢の方の特徴です。
また高齢の方は基礎疾患をお持ちの方も多く、体調不調をきたしがちで、体調不調による体内の水分量やバランスの崩れは脱水を引き起こす原因となります。
また、トイレに行きたくないために水分を控える傾向などが挙げられます。
水分補給
熱中症対策については、年齢に関係なくこまめに水分補給をする必要がありますが、高齢になるとトイレが近くなるなどの理由で、水分の摂取が少なくなってしまいがちです。
実際は水分不足なのに、のどが渇いていると言った意識がない場合もあるので、1日分の摂取目標分を水筒などに入れて、いつでも飲めるようにしておくとよいでしょう。
水を飲むのが苦手という方は、氷を口に含んだり、フルーツや水分の多い野菜などの摂取でもよいかもしれません。
しかしながら水は飲めば飲むほどよいと言ったものでもなく、心臓や腎臓などに持病がある場合は、水分の摂り過ぎはおすすめできません。
また「水を飲むとむせる」という方にはとろみのついた飲料もありますので、かかりつけの薬局にご相談くださいね。
かかりつけの医師や薬剤師に相談をして、自分にとっての適量水分を摂取することが大事です。
日常生活
外出をする際は涼しい時間帯を選び、日陰を歩くように心がけ、日傘や帽子を着用するようにしましょう。
服装は体温を逃がしやすい・汗を吸いやすい・体を締め付けない風通しの良いものを選んでください。また、室内では、扇風機やエアコンを適切に使い、窓はすだれやカーテンで、直射日光を防ぐようにしましょう。
なお、年齢を重ねると暑さの感覚が分かりにくくなるため、温度計や湿度計を各部屋に取り付けることをおすすめします。目で確認することで、「クーラーをつけなくては」、「水を飲まなくては」と気づくことができますね。
ひとり暮らしの高齢者は、緊急時の連絡先などを分かりやすいところに貼っておくなど、一工夫しておきましょう。
暑さ指数を知っておこう
暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度))は、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標です。
人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で 「湿度」、「日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境」、「気温」の3つを取り入れた指標です。
暑さ指数が28(厳重警戒)を超えると熱中症患者が著しく増加します。
「暑さ指数計」という器械が数千円で手に入りますので、職場環境や運動をする環境で行動の数値判断の基準にしておくとよいでしょう。
薬局で買える熱中症の薬やケア商品
人の体は3%の水分を失うと、運動能力や体温調節機能が低下します。
熱中症は室内でも起きるため、ケア商品を用いて十分に気を付ける必要があります。
塩分チャージタブレット(kabaya)
塩分チャージタブレットは、ナトリウム、カリウムなどが配合されたタブレットで、失われた体内の塩分を素早く補給できます。
塩熱サプリ(ミドリ安全)
塩熱サプリは、噛めるタイプのサプリメントで、電解質や栄養素をすぐに摂取できます。
オーエスワン(大塚製薬)
オーエスワンは、電解質と糖質の配合バランスを考慮した経口補水液です。軽度から中等度の脱水状態に適した商品です。
ポカリスエット(大塚製薬)
ポカリスエットは、100mlあたり49mgのナトリウムを含んでおり、汗で失った水分や塩分(ナトリウム)を素早く補給できます。
アクエリアス(日本コカ・コーラ)
アクエリアスは、100mlあたり40mgのナトリウムを含んでいます。熱中症の予防や対策に、アクエリアスよりポカリスエットの方が、効き目があると言われていましたが、大差はないようです。
氷のう
氷水で体の太い血管部分(首や脇、大腿の付け根など)を冷やします。「熱さまシート」や「冷えピタ」などの冷却シートは「冷たく感じる」だけで、体温を下げる効果は期待できないので注意しましょう。
解熱鎮痛薬について注意すべきこと
熱中症になった時に、頭痛をともなうことがありますが、この頭痛は脱水が原因なので、一般の鎮痛効果がある頭痛薬を飲んでも根本的には効きません。
熱中症の頭痛対策に、バファリンやロキソニンなどを飲んで、重症化してしまった例もあります。
現在のところ、熱中症に即効薬はありませんが、薬局やドラッグストアでも入手できるポカリスエット、アクエリアス、オーエスワンなどを摂り、涼しい場所で横になり、太い血管がある首、脇の下、またの部分などを冷やすと良いですね。
まとめ
高齢者は、持病を含め、他の病気を併発している方も多く、熱中症が重症化しやすくなります。
また、高齢者のみの世帯は、熱中症にかかっていると分からず、最悪の場合は命を落とすことにもなりかねません。
「のどが渇く前に水分を摂る」、「暑さを我慢せずにクーラーをつける」、「午後2時~4時までの時間帯は外出を控える」、「汗を吸いやすく風の通りが良い服装を心がける」など、簡単なことを習慣化すると良いですね。
日々の体調の変化に気をつけると共に、熱中症について正しい知識を身につけ、熱中症対策を行ってください。
監修漆畑俊哉(薬剤師)
- 株式会社なかいまち薬局 代表取締役社長
- 日本薬剤師研修センター 研修認定薬剤師
- 日本在宅薬学会 バイタルサイン エヴァンジェリスト
- 在宅療養支援認定薬剤師