セミナー

2023.9.21

第16回日本在宅薬学会学術大会-報告

第16回日本在宅薬学会学術大会へ参加

「第16回日本在宅薬学会学術大会」に参加しました。参加メンバーの報告書をまとめ公開いたします。

日時

学会名

第16回日本在宅薬学会学術大会

2023年7月16日(日)~17日(月・祝)

会場

神戸国際会議場・ライブ配信

主催

一般社団法人日本在宅薬学会

感想および報告

薬剤師法第一条と実務実習 薬局ガチャ造語の行方

皆さん学会参加した事ありますか?自分は5年前位まで自分の休みを使ってまで勉強しに行くの面倒だなと思っていました。ただ、ある勉強会がきっかけで(当時の事を振り返れば、これもただ研修認定薬剤師のポイントを取るために参加していた)バイタルサイン講習会に参加してみようと自らの意思で思い、参加したのが在宅薬学会への扉が開いた瞬間でした。やる気のある人が参加している会をリアルで感じとると、何か自分の中で変わる瞬間に気づけると思います(これは学会に参加しないとわからない)。そして、2024年開催地は長崎です。少し場所的に遠いかなと思いつつも学会発表を目標設定に入れてますので、これから1年仕事を楽しみながらも臨床研究にもトライして行きたいと思います。

さて、今回学会に参加して悩んでしまった事があります。それは薬学部の学生が学会に登壇していた事です。どうして悩むのか…

演題は実務実習についてでした。薬局実習を終えて薬剤師法第一条を考える、現代の新薬剤師法を考える内容でした。自分も実務実習指導を始めて5年位経ちましたが、実習を終えた学生を送り出す度に毎回グッとくるものがありましたが、今回はその感覚とは違う薬学実習教育と,実習の在り方に違和感を感じ悩ませてしまい申し訳ないという気持ちから自然と涙がこぼれました。

それは、実習先の施設や環境により実習問題にばらつきが出る事と現場で活かせるOSCE、実践薬学教育の在り方です。勿論コアカリキュラムで内容は決まっていますが、実習方針、在宅医療、無菌調剤、OTC研修、学校薬剤師、災害医療など受け入れ施設によってばらつきがあるのが現状です。また得体の知れないパワーハラスメントも学生にとっては辛い問題だと思います。

みなみぐち薬局では実習する初日に学生さんにこう伝えています。

あなたが実習先で思った違和感は正しいからなんでも言ってください。自分達は長く働いていて見えなくなっている部分があるので伝えていただけると大変嬉しいです。

お互いの関係はフラットであり学びを共有する事が目的です。

知らない事は恥ずかしくはなく、また勉強をして来なかったのではなく、勉強した内容の使い方を分からなかっただけ、実践すれば今勉強している事がどれだけ患者さんに健康を与えているかがわかり、勉強が楽しくなるとお伝えしております。

今回の学会は、自分達が現在進めている事を、より強固に推進して行こうと思える学会でした。

Don’t think ,just do .

執筆者土橋弘靖(薬剤師)

土橋弘靖(薬剤師)
  • 研修認定薬剤師
  • 認定実務実習指導薬剤師
  • 認定がん医療ネットワークナビゲーター
  • スポーツファーマシスト
  • 日本在宅薬学会バイタルサインエヴァンジェリスト
  • 腎臓病薬物療法単位履修修了薬剤師
  • 心電図検定3級

皆さまの「やってみたい」を積極支援

 

私は薬剤師として1年目から現在にかけて在宅に従事しています。この度初めて学術大会に参加し11の公演を聞いて学びや気づきがあったことを共有させて頂きます。

超高齢多死社会における薬剤師の役割

今後の日本における年齢人口割合

皆様は今後の医療体系がどのように変化していくか想像したことがありますか?

肌で感じることもあるかもしれませんがスーパーや周りを見ると若年層より高齢者の方が多いような印象を受けることがしばしばあります。

具体的な数値で記載すると、令和3年時点で高齢化率(※)は28.9%であり統計学上2030年までに高齢化率は30%に達し、さらには2040年にはついに生まれる数より死亡する数のほうが多くなることが予想されております。これは世界的にもダントツの数値で2位のイタリアの23%に5%も差をつけるほどのものです。このことからも日本は諸外国に比べて類を見ない速さで高齢化が進行しています。

この事実を踏まえたうえでどのようなことが私たちを待ち受けているのかというと、3件に1件が空き家、貧困・治安の悪化、病院ひっ迫による在宅での看取りの増加、働き手の減少、医療の分野で言えばとりわけ介護人材や看護師の減少がより著しくなります。

※高齢化率:総人口に占める65歳以上の人口の割合

対人業務の充実

これから待ち受けている超高齢多死社会に備えることとして、一人の患者に対してそれぞれの専門家が職能を発揮すると同時に「顔の見える関係」を築き上げることがとても重要であります。もちろん薬剤師としては服薬指導、副作用の確認、健康相談等の患者に対しての対人業務の充実もそうだが、ここで重要なのが他の医療従事者に情報をシェアすることです。自分が当たり前だと思っていることは他の医療従事者としては初耳なことが多いので些細なことでも薬剤師としての知見を情報提供することでより高度な医療提供につながる可能性があります。みつばウェルビーング株式会社代表取締役社長山内知樹先生は宝塚市にて自分たちで地域包括ケアシステムを作り医師会、薬剤師会をはじめとした20の医療介護職能団体が共催団体となり定期的に研究会を開催していると仰っていました。この会を基盤に今では多くの新しい研究会や研修、市民向けの講演の活動が生まれ、さらに専門職同士の関係性の向上が日々の業務の効率化にもつながっていると実感されていると知り私は驚嘆したのを覚えております。

エピローグ

今回学術大会に参加したことで個人的NEWSを知ることが多々ありましたが、なによりの収穫は他の医療従事者との関わりを積極的にとり、より薬学的知見を情報発信するという意識づけのきっかけなったことです。

所属している場所は違えど皆同じ患者に対する熱意は同じなのだと再認識すると同時に、敵じゃない!仲間なのだからもっと関わりたい!とより日々の業務で強く感じるようになりました。薬局から飛び出して自分を知ってもらうことや、仲間との関りを持つことが目の前の患者の少しでも得になるのであれば、、、、そんなことを思いながら毎日を過ごしております。長文になりましたがここまで読んでいただき誠にありがとうございました。皆様の日々に幸あれ!!

執筆者関 悠人(薬剤師)

関悠人(薬剤師)

研修認定薬剤師
神奈川県秦野市出身。2018年横浜薬科大学卒業
薬剤師として1年目から現在に至るまで在宅に従事し、患者様に寄り添える存在を模索しつつ、他の医療従事者に適切な薬物療法の提供に日々奮闘中。趣味はバドミントン。地域の大会では優勝経験も持つ。

皆さまの「やってみたい」を積極支援

薬剤師が変わるために乗り越えるべき3つの壁

理事長講演にて「変わりたいがどうしたらいいか分からない」という薬剤師には乗り越えるべき3つの壁があると学んだ。それらは、「失敗することへの恐れ」「怒られることへの恐れ」「周囲から浮くことへの恐れ」である。

薬剤師が服薬後フォローを実施するために、バイタルサイン・フィジカルアセスメントの実技を講習会で学んでも、実際に現場で実践するにはかなり勇気が要る。自分も現在1年目として、外来にて不整脈の方やβ遮断薬を服用中の方に対して脈診したり、心不全の方などに対し下肢の浮腫を触診している。

実際のところ、外来でバイタルサイン・フィジカルアセスメントを必要に応じて実施する薬剤師は数少ないため、最初は「先輩もやっていないことを自分が実施して患者さんから怒られたらどうしよう。」という恐れがあったが、声かけしやすい方から徐々に試みていった。上司からの指示ではなく、自分で判断し、自分で行動に移す。この積み重ねによって徐々に自信がついていくのが実感できた。

一方で、「なぜ薬剤師がそんなことをするのか。」「医者が確認してくれているから薬局では結構だ。早く帰らせてくれ。」といった言葉を頂戴し、萎縮してしまう場面もあった。まさに失敗し、怒られ、周囲から浮いている状況である。

しかしこういうときこそ、「Why」つまり、原点に立ち返ることが重要だと思う。何故わざわざ外来の限られた時間の中で、バイタルサイン・フィジカルアセスメントを行うのか。それは、薬学に携わる専門家として、目の前の方に必要と判断したからに他ならない。

現状に何とも言い表せないモヤモヤを感じ、一歩踏み出した際にリスクや恐怖はつきものである。しかし、いかなるときも自分の良心に従い、勇気をもって行動した自分に誇りを持ち、行動し続けることが重要であることを学んだ。今後の薬剤師キャリアの中でも、その都度乗り越えるべき壁が現れると思う。その際「自分のやっていることは決して間違っていないんだ。」と、まるで北極星のように、どんなときも自分の進むべき方向性を指し示してくれるような講演であった。

特別講演3_在宅医が薬剤師に望むこと「病気・薬の専門家」から「人・生活の専門家」へ

今後さらに超高齢化社会が進むと、普段接する患者の大半は高齢者となる。高齢者が抱える疾患の背景にあるのは、老化による身体機能の衰えである。これらは慢性的に進行するため、一般的に各疾患の完治はほぼ不可能である。そのため、それぞれの「病気」に対して丁寧に治療し完治を目指すのではなく、複数の疾患を併せ持っている「その人」として治療を行う必要があることを学んだ。

「その人」と向き合うとは、即ち「その人」の人生観や価値観に沿った治療を提供することである。在宅医療であれば、残りの人生で何を望むのか、何を望まないのかを丁寧に聞き取り、治療に反映させていくことが求められる。

後期高齢者の場合、加齢とともに予防医療の観点での治療の必要性は低下する。一方で、多くの現場で予防医療の観点での治療が漫然と行われているのが現状である。例えば、80歳を超えて腎機能の低下に伴い、腎保護作用のある降圧薬を追加するのは「その人」にとって本当に必要な薬物治療なのだろうか。科学的には正しいのかもしれないが、人生の最終局面において薬が増えることによる副作用等の有害事象のリスク、アドヒアランス低下のリスクを踏まえると本当に正しい選択なのだろうか。

全体の傾向として、薬剤師はある意味、正解にこだわりすぎる方が多いように思われる。血圧が高いから降圧薬が処方されている、背中が痒いから抗ヒスタミン薬が追加されているなど、科学的かつ論理的に正しければ正解とする場面が多い。

しかし、今後は「病気」に対する過剰な科学的アプローチではなく、複数の疾患を併せ持った「その人」として患者を観ることが求められる。多職種と連携しながら医療として科学的に正しいことと、「その人」が望むことの2つのバランスを保ちつつ、「人・生活の専門家」としてその都度最適な薬物治療を提供することが重要であると考えた。

執筆者堺大輔(薬剤師)

堺大輔(薬剤師)

広島県出身。2023年星薬科大学薬学部を卒業後、新卒で株式会社なかいまち薬局へ入社。

現場でバイタルサインを活用した服薬期間中フォローアップを取り組みつつ、人事・採用チームや学術委員会など様々なチームに所属し活動の幅を広げている。趣味は野球観戦。広島東洋カープファン。

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