セミナー

2023.9.20

「あゆみ塾」合宿研修会-報告

あゆみ塾合宿研修会

「あゆみ塾」合宿研修会へ参加したメンバーの報告書をまとめ公開いたします。

日時

学会名

「あゆみ塾」合宿研修会

2023/8/5(土)〜8/6(日)

会場

クロスウェーブ梅田

主催

一般社団法人 薬剤師あゆみの会

感想および報告

薬剤師が知っておく心不全の病態と薬物治療、在宅医療

今後、高齢者の人口割合が増加すると、悪性腫瘍によるターミナルケアだけでなく、いわゆる非がん患者のターミナルの需要が増加する。我が国では、特に心不全患者数が増加の一途を辿っており、現在、90歳以上の女性における死亡率の第一位は心不全である。昨今「心不全パンデミック」と呼ばれるほど、今後地域として心不全予防・治療に対し、いかに注力できるかが重要視されており、薬剤師も心不全に対する正しい知識を身につけ、適切な介入と評価を行うことが求められている。

心不全の初期段階であるステージAの疾患として、高血圧、糖尿病、虚血性心疾患、不整脈などがある。これらは、普段外来業務や在宅医療の現場で接している患者の中にも該当する方は少なくないであろう。

心不全の症状としては主に2つである。うっ血による症状、低心拍出量による症状である。

うっ血による症状としては、息切れ、起坐呼吸、体重増加、下肢の浮腫などがある。息切れ・起坐呼吸は、日常生活の中で、横たわるよりも座った方が呼吸しやすいことが評価項目として挙げられる。体重増加は、1週間当たり2~3kg単位での体重増加、下肢の浮腫は、脛や足背あたりの皮膚を押した際に圧痕が戻らないことが挙げられる。

低心拍出量による症状としては、手指冷感、慢性疲労、食欲不振、動悸などがある。これらは「NYHA分類」に基づいた評価が可能であり、「以前よりも階段や坂道を上る際に息切れやが生じる」などといった主訴を聴取する必要がある。

ここで重要なのは、例えば、「今まで難なくこなせていた動作で疲労感を感じる」という主訴に対し、「高齢者のため、ある程度の身体機能の低下は仕方がない」と評価するのではなく、「もしかしたら低心拍出量の症状かもしれない」と心不全の疑いをもつことである。

「薬剤師は患者に触れてはならない」といつまでも固定観念に囚われるのではなく、必要であればバイタルサイン・フィジカルアセスメントを実施する必要がある。「心不全パンデミック」に備えるためには、薬剤師も心不全に関する適切な知識と技能を併せ持ち、勇気と良心をもって行動することが求められると考えた。

あゆみ塾合宿

薬剤師のための薬物動態学の臨床応用

薬剤師は薬理学、病態、薬剤学に関する専門家である。大学では、この薬はどういう効果・副作用があり、どういう疾患に対して使用されるのか、服用して何時間後に効き目が出始めるのかといった内容を学ぶ。

一方で、これらのうち薬剤学について大学で学んだことを現場で実践している薬剤師はどれだけいるだろうか。特に薬物動態学については、難しい数式を用いて計算する必要があり、学生時代から苦手意識を持っている方は多い。普通錠と口腔内崩壊錠の違いなど製剤学に関する知識は使うことがあっても、薬物動態学については使用頻度が少なく、大学で必死に覚えた公式すら忘れてしまっているのが現状である。

しかし、服用した薬が体内でどう代謝され、いつどうやって排泄されるのかは医師など他の医療従事者は大学で学んでおらず、薬剤師の専門分野である。つまり薬物動態学は、患者の薬物治療の質の向上や、医師へ科学的かつ論理的な処方提案を行ううえで、薬剤師にとって欠かせない武器と言える。

例えば高齢者の場合、年齢とともに肝機能や腎機能が低下し、服用した薬剤の排泄が遅延する。結果として効果が増強され、副作用のリスクが高まる。

腎排泄型の薬剤の場合、消失半減期の延長および消失速度定数の低下によって排泄の遅延が生じる。また、患者の年齢や体重といった変数や、添付文書およびインタビューフォームに記載されている薬物動態に関する数値を用いて、具体的な遅延度合いや血中濃度の推測も可能である。得られた科学的な根拠をもとに、肝消失型の同種同効薬への変更を提案することも薬剤師だからこそ可能なのである。

肝消失型薬剤の場合、まず肝抽出率Eによる薬剤の分類が可能である。Eが低い薬剤の場合、肝機能が低下すると消失半減期が延長し、効果の増強および副作用リスクの上昇が生じやすい。例えばワルファリンはE<0.3である。高齢者の場合、肝機能が低下することでワルファリンの血中濃度の上昇および消失半減期の延長が生じ、出血傾向のリスクが上昇する。これらの薬学的なアセスメントをもとに医師に対してPT-INR値の検査を依頼し、ワルファリンの投与量の再設計を行うことも可能である。

他にも現場で使える薬物動態学の知識をご教授いただいたが、個人的には明日から薬の見え方が一変するようなパラダイムシフトであった。中でもまずは、普段よく扱っている薬の薬物動態的な考察に努めることが大切であると考えた。この薬は腎排泄型かそれとも肝消失型か。服用何時間後に効果が出始めるのか。高齢者の場合どの程度排泄が遅延するのか。これらを理解することで、患者個々の特徴や生活スタイルに合わせた指導だけでなく、薬剤師の専門性を活かした科学的かつ論理的な処方提案も可能であると考えた。

執筆者堺大輔(薬剤師)

堺大輔(薬剤師)

広島県出身。2023年星薬科大学薬学部を卒業後、新卒で株式会社なかいまち薬局へ入社。

現場でバイタルサインを活用した服薬期間中フォローアップを取り組みつつ、人事・採用チームや学術委員会など様々なチームに所属し活動の幅を広げている。趣味は野球観戦。広島東洋カープファン。

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