PTSDと診断。PTSDの症状と治し方
「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」という言葉を、聞いたことがあるでしょうか?心の病気の1つで、適切なサポート・治療をしなければ、日常生活に支障が出てしまう可能性のあるものです。
今回は、PTSDについて着目し、どういった症状が出るのか、ご自身でできるケア方法はあるのかなど解説をしていきたいと思います。
もし、「当てはまるかもしれない」「辛さがある」という方は、専門家のサポートを受けましょう。
PTSDとは何か?その症状とは?
PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、命の危険を感じたり、自分では対処しようのない圧倒的な強い力に直面したりといった、強い恐怖感を伴う体験をした人に起きやすい症状です。
自然災害、重大な交通事故、性暴力、虐待、パワハラなどによりPTSDを起こすことが知られています。
強い恐怖やショックを感じると、その体験を落ち着いて整理することが難しくなります。そうすると、記憶が曖昧な部分とはっきり覚えている部分とが混じり合ったり、実際にあったことや感じたことの関係性や順序がわからなくなったりといった、不安定な状態に陥ります。
ふとした瞬間にフラッシュバックする、関連した悪夢を見るなどして、つらい出来事があった当時に戻ったように感じ続けてしまう、大変な状態です。
PTSDの主な症状と診断基準とは?
PTSDに特徴的な症状をご紹介します。
侵入症状
きっかけとなった出来事に関する、つらい記憶が突然蘇ってきたり、悪夢として繰り返されたりすることです。
不安な気持ちを感じたり、動悸や汗をかくといった体の症状も伴います。いわゆる「フラッシュバック」が侵入症状にあたります。
回避症状
出来事を思い出すような人・場所・会話を避けようとすることです。避けようとするために、日常生活に支障をきたすこともあります。
気分の落ち込み
否定的な気持ちになる、興味や関心がなくなる、孤立感・疎外感に苛まされる、・幸せや愛などポジティブな気持ちにならなくなるなど、気持ちの波がマイナスに傾きがちになります。
反応性・睡眠の変化
ちょっとした刺激にも大きく反応してしまう「驚愕反応」や過剰な警戒が見られたり、無謀な行動をとるなどの「自己破壊的行動」をしたりします。
また、集中できない、睡眠の質が下がる、睡眠が取れないといった変化も起きます。
症状は、必ずしも出来事の直後から生じるわけではありません。
直後は元気そうに見えても、数週間〜半年ほど経ってから、こうした症状が出てきて、PTSDを発症することがあります。
また、PTSDの合併症として、うつ病や依存症(アルコール、薬物など)を起こすことも少なくありません。
適切なサポートを受けることが、回復への近道です。
薬物の依存と聞くと、違法薬物を想像するかもしれませんが、市販の痛み止めや咳止めといった身近な薬物への依存もあります。
お薬の使い方に関して心配がある、依存がどういった状態なのか知りたいという方は、薬局の薬剤師へご相談ください。
第一の治療は「認知行動療法」
認知行動療法といって、考え方に工夫をして気持ちを楽にする方法が第一選択とされています。
持続エクスポージャー療法
トラウマを引き起こした場面を、あえて想像したり、記憶を呼び起こしたりすることで、「怖くない」「思い出しても、危険はない」と感じられるようにする訓練です。
もちろん、専門家のサポートのもとでおこなう治療法なので、自己流でおこなうことは避けましょう。
認知処理療法
トラウマを起こした体験が、なぜ自分の中で特につらい出来事としてうまく解消されないのか、自分や他者・世界に関する考えを見つめ直すセラピーです。
自分でできるPTSDのケア方法
PTSDの治療は、認知行動療法や内服薬によるものなどがありますが、根気強く付き合っていくことが大切です。医師や公認心理士との相性も、治療成功のカギとなります。
ですが、すぐには自分に合った医師や公認心理士が見つからなかったり、専門家とつながるまでに時間がかかってしまったりする場合もあるでしょう。そんなときは、ご自身でできる方法で、自分をいたわってみてください。
ストレッチ
まずは、ストレッチをおこない、全身をリラックスさせましょう。
- 両足を肩幅くらいにして、まっすぐに立ちます。
- ゆっくりと鼻から息を吸いながら、両肩を上げます。そのあとは、ゆっくりと口から息を吐きながら、肩を後ろに回していきます。この方法で、両肩を3回、ゆっくりと回してください。(肩のストレッチ)
- 片方の手を頭の上に添えて、ゆっくりと鼻から息を吸いながら、肩の方へ首を倒します。首を倒したら、ゆっくりと口から息を吐きながら、首をまっすぐに立てます。これを、左右3回ずつおこなってください。(首周りのストレッチ)
- 両手の指を胸の前で組み、ゆっくり鼻から息を吸いながら、前へと伸ばしていきます。このとき、背中を丸く、膝は軽く曲げてみてください。ぐーっと背中を伸ばしたあとは、口から息を吐きながら元の姿勢に戻ります。この動作を3回繰り返しましょう。(背中のストレッチ)
- 両手を腰の後ろで組み、ゆっくりと息を吸います。口から息を吐きながら、組んだ手をななめ後ろの方向へ伸ばします。これを、3回繰り返します。(胸のストレッチ)
- 両手を頭の後ろで組み、ゆっくりと息を吸います。口から息を吐きながら、組んだ手を上の方向へ伸ばします。これを、3回繰り返します。(体幹のストレッチ)
呼吸法
不安や緊張を和らげる呼吸法をご紹介します。
息を「吸う」ことではなく、「吐く」ことに意識を向けてみましょう。不安や緊張、パニックになると、多くの方は息を吸うことに一生懸命になってしまうものです。ですが、息を吸いすぎると不安が強くなってしまうことがわかっています。
「息の吸いすぎで、過呼吸になる」ということをイメージすると、わかりやすいかもしれません。
軽く息を吸って、ゆっくり、しっかり息を吐く練習をしてみてください。息を吐くときには心の中で数を数えながら、体の力を抜くようにするのがおすすめです。
息を吐き終わったら、3秒ほど息を止めます。この呼吸を、毎日10分を目安に繰り返し練習しておくと、不安を感じたときにもこの呼吸が自然にできるようになり、不安を和らげることができます。
不安を悪化させる要因を取り除く
不安を悪化させる要因があれば、できるだけ取り除くようにしてみましょう。
不安を悪化させるのは、PTSDのきっかけとなった出来事に関わるもの(人や場所など)だけではありません。代表的な要因としては、以下のようなものが挙げられます。
カフェイン
カフェインをとりすぎている方は、少し量を減らしてみてください。
大きな音
大きな音が苦手な方は、耳栓などを使って音の刺激を減らしましょう。
激しい運動
運動は、頻度や程度を加減しながら楽しんでください。
体の病気(甲状腺、心臓など)
体の病気がある方は、そちらの治療もしっかり続けることが大切です。
まとめ
今回は、PTSDについてご紹介しました。
災害や大きな事故、虐待など、命の危険を感じたあと、自分には対処しようのない大きな力に直面したあとなどに発症する病気です。
きっかけとなった出来事の直後は元気であったとしても、数か月〜半年など時間が経過して症状があらわれることがあります。
一人で抱え込んで無理をせず、適切なサポートを受けながら心の回復を目指しましょう。もし、心が不安や緊張でいっぱいになってしまうという方がいたら、今回ご紹介したストレッチや呼吸法を取り入れてみてください。
参考
監修漆畑俊哉(薬剤師)
- 株式会社なかいまち薬局 代表取締役社長
- 日本薬剤師研修センター 研修認定薬剤師
- 日本在宅薬学会 バイタルサイン エヴァンジェリスト
- 在宅療養支援認定薬剤師